世の中にある、どうしようもなくて、ろくでもない話を漫画で読むと、たいてい後味がひどく悪くて、二度と読みたくないと思うのですが、森下裕美の「大阪ハムレット」は、そうではありませんでした。
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表題作の「大阪ハムレット」の、ハムレット的主人公の久保行雄は、見た目はガラの悪い不良風で、実際かなり粗暴なのですが、繊細な感受性で周囲の人を見つめ、思いを受け止めています。
夫が死んでも全く悲しまず、夫の兄、つまり行雄の叔父と同居し、ほとんど夫婦同然の関係を結んでいる母。
叔父は、家族であることを確認するかのように、あれこれとおそろいのものを行雄に買い与えますが、行雄は困惑し、どこか居心地の悪いものを感じ続けています。
そんなとき、学校の教師が、行雄のことを「ハムレットのようだ」と言っていたという話を聞きつけ、シェークスピア原作の小説「ハムレット」を図書館かり借り出して、読んでみるのですが……
行雄は激高して教師を詰問。
ハムレットに対する行雄の感想は、胸がすくほどストレートで、明確です。
行雄にも、複雑な家庭環境に置かれた苦悩や、自分は、ほんとうに死んだ父の息子なのだろうかという疑問、迷いはもちろんあります。
でも、自分のことよりも、大事な家族を思う気持ちが一回りも二回りも大きくて、その気持ちに揺るぎの生じることが、ないのです。
そうこうするうちに、行雄の母が、いきなり出産。
妊娠に気づいたのが出産の当日という、ものすごい展開ですが、行雄はしっかりと事態を受け止め、母、叔父、赤ん坊の四人で、ちゃんと家族になろうと心に決めます。
自分一人でぐじゃぐじゃに悩んで、結局誰のことも幸せにできなかった、オリジナルのハムレット。
ぐじゃぐじゃの状況を真っ直ぐに受け止めて、家族を思いやる、大阪のハムレット。
、
大阪のハムレットのほうが、男前だと思います。
森下裕美の漫画を読んだのは、この作品がはじめてでした。
すごくいいと思ったので、他のも読んでみようと思っています。
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