2019年5月23日木曜日

ベレー帽と夢野久作




今日の目玉…ではなくて、帽子。









ベレー帽がいつごろ日本に入って来たのかは分かりませんが、少なくとも昭和初期の文学作品には、お洒落な帽子として登場しているようです。


旅疲れのままで、一層、醜くくなった職工風の江馬兆策と、青白いワンピースに、タスカンのベレー帽をチョッと傾けた、女学生みたいに初々ういういしい美鳥の姿は、世にも微笑ましいコントラストを作っているのであった。

夢野久作「二重心臓」 青空文庫 初出:「オール読物」
1935(昭和10)年9、10、11月号



「タスカンのベレー帽」の「タスカン」が分からないので、ネット辞書を引いてみました。



タスカン‐ぼう【タスカン帽】
《Tuscan hat》イタリアのトスカナ地方に産する麦稈真田(ばっかんさなだ)で作った上質の夏帽子。 
 (デジタル大辞泉)


タスカン‐ぼう【タスカン帽】 

 (タスカンはTuscan 「トスカナ地方の」の意) 麦わら帽の一種。イタリアのトスカナ地方で産する、黄みの深い麦藁真田(むぎわらさなだ)で作られた、上等な麦わら帽子。〔舶来語便覧(1912)〕 
(精選版 日本国語大辞典の解説)



ベレー帽というと、フェルト製のイメージが強いですが、昭和初期には麦わらで作ったベレー帽があったのでしょうか。


麦稈真田で帽子を作り続けている、明治十三年創業の田中帽子店のブログを見てみたのですが、残念ながら、ベレー帽っぽいものは、商品一覧のなかにはありませんでした。

https://tanaka-hat.jp/



Amazonで「麦わら ベレー帽」で検索すると、麦わらで編んだように見えるベレー帽が、いくつかありましたが、素材を見ると「紙」だったりポリエステルだったりで、藁製品は見当たらないようです。



それはともかく、引用した夢野久作の「二重心臓」、短編ですが、最後の最後まで、どんでん返しにつぐどんでん返しで、ものすごいお話でした。


以下、ネタバレなので、文字サイズを小さくしてみます。




サイコホラーな作品ばかりを上演する劇場のオーナーが自宅で惨殺され、その愛娘であった看板女優が父の敵を討とうとする、という話かと思ったらそうではなく、誰からみても近親相姦っぽい父娘を引き裂いて女優を我が物にしようとする第三者かによる犯行かと思ったらそうでもなく、女優の禁断の過去に絡んだ愛憎劇、というのは当たらずとも遠からずだけれども本質はそれでもなく、最後の最後に分かったのは、ごくノーマルな恋心だった、という…。




青空文庫版なので、無料で読めます。








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